菅さん、「孤立化」に取り組むはずでは 岩見隆夫
夏が去るに当たって、といってもまだ猛暑が続いているが、ひと言どうしても言っておきたい。それは、〈情のある政治〉とは何か、といったことである。

この夏、特に高齢者にとっては地獄の日々だった。「あしたの朝、生きて目が覚めるかな」と冗談とも本気ともつかぬやりとりがあちこちで交わされた。東京二十三区の熱中症による死者が百人に達した時、これはまぎれもなく災害だ、と私は思った。地震や豪雨による被害と何ら変わりがない。襲いかかるような連続猛暑はもはや天変地異の類である。

いっぺんに百人ではないが、毎日追加されていく。東京に集中しているのは高層ビルとアスファルトのせいだが、全国でも入院患者四万人余、死者が三百人に近づいている。

政府は当然、緊急対策本部を設置し、応急措置を講じるものと私は信じて疑わなかった。死者はほとんど高齢者で、それも九割が家の中で倒れるというのだから、打つ手はいろいろあるはずだ。専門家が知恵を絞ればいい。

しかし、対策本部を置く気配などまったくなく、菅直人首相はいそいそと長野県軽井沢町のホテルへ静養に出かけた。ホテルの縁側で読書するポーズをメディアに撮らせている。私の周囲の何人かが、

「菅さんと軽井沢はミスマッチだよ」と同じ感想を漏らしたが、そんなことより、怒りを覚えた。普通の夏なら軽井沢でもどこでも、涼しいところで英気を養っていただきたい。日本のトップリーダーなんだから。

しかし、今年は異常な恐ろしい夏だった。熱中症に続いて、百歳以上の行方不明者が続出した。高齢者の居場所がなく、行方不明者のほとんどがどこかですでに死亡しているのだろう。だが、死亡したかどうかの確認も取れない。骨が出てきたケースだけニュースになる。

日本の社会もとうとうここまできたか、とだれもが思った。あすはわが身かもしれない。深刻なテーマを突きつけられたのだ。しかし、行政は全国の百歳以上の所在確認をしただけで、政治は何の反応もない。

私が首相なら、「とりあえず九十歳以上の所在確認も早急に実施し、全行方不明者を可能なかぎり追跡せよ」と厚生労働相、総務相に命じる。同時に、家族、親族らが一家の長老の行方不明をそのまま放置してきた問題をめぐって、議論を深めなければならない。

そのリーダーシップを政治がとるのは当然である。国民の生命にかかわることであり、社会の病気が進行しているとみられるからだ。

◇問題意識は的確ながらなぜ敏感に反応しない

鳩山由紀夫前首相は、国会演説で、「いのちを守ります」と何度も叫んだではないか。まさか、いのちのなかに、高齢者が含まれていないはずはない。菅首相も就任初の所信表明演説で、

「今、私が重視してるのは、『孤立化』という新しい社会リスクに対する取り組みです。人は誰しも独りでは生きていけません。わが国では、かつて、家族や地域社会、そして企業による支えが、そうした機能を担ってきました。

それが急速に失われ、ネットカフェに寝泊まりする若者や、地域との関係が断ち切られた一人暮らしの高齢者など、『孤立化』する人が急増しています。孤独死で大切な人生を終えてしまうおそれがあるのです。

私は支え合いのネットワークから誰一人として排除されない社会、すなわち『一人ひとりを包摂する社会』の実現を目指します……」

と約束している。問題意識は的確なのだ。しかし、〈誰一人として排除されない社会〉とはほど遠く、ボロボロと排除されている現実をみせつけたのが、大量の行方不明事件だった。菅さんはなぜこの事件に敏感に反応しないのか。それとも、所信演説は単なる机上の作文なのか。

強力な権限を持つ首相は一人しかいない。だからこそ、世の中の万般に細かく目を注ぎ、情愛をもって対応しなければならない。代役がいないのである。

ところが、最近の菅さんは、小沢一郎前幹事長にあおられ、迫ってきた民主党代表選の行方にやきもきし、ほかのことは目に入らないみたいだ。先日も、鳩山さんに電話をかけ、

「どうすればいいか」と相談を持ちかけたという。政界でもっとも秘密を守れない男、として早くからレッテルを張られている鳩山さんは、その日出演したBSテレビの番組でさっそく電話のやりとりを暴露してしまった。鳩山さんが、

「首相として泰然自若としていればいいではないか。(代表選の)選挙目当てみたいに思われることはプラスにならない。国政に専念している姿を国民が見てくれれば、一番プラスではないか」と助言したことまで明かし、それが新聞でゴシップのように報じられたのだ。

唖然とした。何でもしゃべってくれるのは、わかりやすくていいと言えばいいが、電話をかけた菅さんのほうは、世間に筒抜けになるなんて想定していなかっただろう。だが、それはどうでもいいことだ。

助言の中身である。私は首相のころの鳩山さんが操る日本語に再三疑問を呈してきた。今回も、プラスになる、ならない、は〈代表再選にとって〉ということのようだ。

「多数派工作などオタオタしないで、菅さん、泰然自若、国政に専念の姿が、あなたにとって有利ですよ」とアドバイスしている。ほんの三カ月前、国政をしくじって首相を棒に振った人が、それも忘れたかのように、専念を、と言う滑稽さがおわかりでないらしい。自分で暴露するぐらいだから。

加えて、首相にプラスになるための政治、という感覚、何かすごく幼稚である。菅さんの反応はわからないが、これでは、〈情のある政治〉など望むべくもない。(サンデー毎日) 

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| 岩見隆夫 | 06:19 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







火噴くか、「小沢VS世論」 岩見隆夫
おびただしい量の小沢情報である。民主党代表選に小沢一郎前幹事長立つべし、という擁立論も根拠は一様でなかったが、割合興味深く聞いたのは、硬骨漢で知られる西岡武夫参院議長の発言だ。西岡は、

「ここで小沢さんの問題の決着をつけるべきだ。菅さん(直人・首相)と戦って、小沢さんが首相になれば何をやろうとしているのか、もう待ったなしにわかる。それで日本の今の何となくもやもやしている状況はすっきりする」(19日付「朝日新聞」インタビュー)

と語った。キーワードは<もやもや>、正体は多岐にわたるだろうが、この小沢的もやもやのために、民主党内はもとより政界全体、ひいては日本中が澱(よど)んだ。菅・小沢の一騎打ちはそれをほぐす、あるいはほぐす導入部の効果を持つかもしれない。

だが、小沢と親密な西岡が言う<すっきり>とは、どんな状態を指すのか。だれがすっきりと判定するのか。もやもやの核心に当然<政治とカネ>がある。西岡は、「そんなのも全部、中央突破しちゃうんですよ」(同)

と言ったそうだ。そうはいかない。勝てば官軍式に、かりに小沢が代表選を制し首相に就いたとして、それだけで政治資金疑惑を突破できるはずがない。

突破論を補足するように、小沢側近の一人は、「100%完全な人なんていない。佐藤さん(栄作・元首相)のケースだってある。逮捕状が出たのに、あとで首相になって、沖縄返還をやり遂げ、ノーベル平和賞までもらったじゃないか」と抗弁した。吉田政権末期の1954年に発覚した造船疑獄だ。

検察当局は佐藤自由党幹事長、池田勇人政調会長、三木武夫元幹事長、岡崎勝男外相、重光葵改進党総裁ら大物を含む五十数人の政治家を取り調べた。

同年4月、佐藤に対し2000万円収賄の容疑で逮捕許諾請求をするが、吉田茂首相の指示で犬養健法相が指揮権を発動し阻止、逮捕をまぬがれる。犬養は辞任した。当時、

「佐藤が受け取ったカネはすべて党資金になった。私腹を肥やしたのではない」と言われたが、はっきりしない。疑いを受けたなかから、のちに池田、佐藤、三木の3人が首相に上りつめる。

しかし、だから小沢も、という議論はもはや通用しない。小沢マネーの公私の別もあいまいだ。とにかく業界ワイロがはびこる戦後保守の<負の遺産>を断ち切れ、と世論は民主党政権に求めている。

先日の「毎日新聞」調査で、大半の85%が小沢復権は<好ましくない>と回答したのも、<小沢とカネ>に強い疑念を持ち続けているからだ。

小沢の出方次第では、小沢と世論が全面対決の構図になる。「世論迎合の政治はしない。内閣支持率がたとえ3%になっても、国のためにやる」と小沢側近は勝利を前提に悲壮感を語るが、かつてない異常な首相選びだ。

27日付主要6紙は、小沢の出馬表明について、次の社説を掲げた。

▽あいた口がふさがらない(朝日)
▽大義欠く小沢氏の出馬(毎日)
▽日本の針路を競う代表選に(読売)

▽国の指導者に不適格だ(産経)
▽主導権争いだけの党代表選なら不毛だ(日経)
▽「国のかたち」こそ争点だ(東京)

新聞論調にも温度差がある。小沢VS世論が火を噴くか。世論側も問われている。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 08:31 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







論客らしい論客はだれ 岩見隆夫
「いまの政界で、論客らしい論客はどなたですか」と時折尋ねられる。これぞ、という政治家がいれば、こんな質問が出るはずがない。論客不在を嘆いているのだろう。

返答に窮する。

「五指に入ると思うが」と共産党の小池晃政策委員長(50)を推したことがある。小池は共産党用語でなく、自身の言葉でわかりやすく語りかけ、聞くものを引き込む独特の雰囲気を持ち合わせている。攻撃タイプではなく、説得型の論客だ。先の参院選で惜しくも落選した。

五指と言っても、あとの四指が定まらない。昔を懐かしんでも仕方ないが、自社55年体制のころは、すぐに何人か名前が浮かんだ。社会党の方が万年野党のせいか、論客ぞろいだった。

その一人、石橋政嗣元委員長(85)は、<あのころが、国会議員としてもっとも充実した日々だった>と、<安保5人男>のことを書き残している(著書「石橋が叩く」)。50年前、日米新安保条約を審議する衆院安保特別委で連日、論陣を張った面々だ。

石橋の批評によると、岡田春夫は秘密資料を抜き打ち的にぶつける奇襲攻撃型、飛鳥田一雄は新聞に出た問題をさらに掘り下げていく正面攻撃型。

さらに、横路節雄は同じことを執拗(しつよう)に繰り返す粘り腰型、石橋は組み立てた理論をもとにじんわり相手を追いつめ、とどめを刺す一撃型だったという。5人目、松本七郎の記述はない。石橋が、

<準備期間を含めて1年余り、人生最高の勉強をした。安保国会に備えてつくったノートは30冊にのぼり、自信を持って質問できた>

とも記しているように、国をあげての安保騒動という大舞台に刺激され、論客の腕も一段と磨きがかかったということだろう。

社会党でもう1人、論客の呼び方がふさわしいかどうか、かつて<国会の爆弾男>と恐れられたのが楢崎弥之助(90)である。楢崎は、資料の集め方と取り扱いの心掛け、質問のテクニックなどで、先の<安保5人男>の2人、岡田、横路に指導を受けた。2人は、

「朝、新聞を読んで、すぐ質問するようなことだけはするな」

「新聞の後追いをするのではなく、新聞から後追いされるような質問をしろ」などと教えたという。以前はそうした師弟関係もできていた。

さて、いまの論客だ。「毎日新聞」の現役政治記者たちの助けを借り、しいて選べばと検討した結果、次の4人に絞った。カッコ内は記者コメント。

▽石破茂元防衛相(自民・53歳)「議論が整理できていて、まっとうなリベラルだ。時に逃げることがあるが」

▽林芳正元防衛相(自民・49歳)「論戦の導入部で遊びも心得ている。菅直人首相の夫人が新聞インタビューで林を褒めたのを引き合いに、『奥様によろしく』と言ってみたり。しかし、本当の勝負はこれから」

▽枝野幸男民主党幹事長(46)「舌鋒(ぜっぽう)鋭く、説得力がある。ないのは政局観だけ。菅首相と同様、縮こまっているところが気になる」

▽山口那津男公明党代表(58)「選挙の時、レッドカードを小道具に使ったのもそうだが、論戦でもキーワードを用意している。迫力が出てきた」

与野党が攻守所を変えて約1年、それぞれが慣れていない面もある。論客の基準も時代とともに変わっていい。だが、とにかく花形が次々に出てこないことには、政治はいつまでもはずまない。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 06:29 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







伊吹塾で「和魂」を考える 岩見隆夫
この夏、骨身にこたえる出来事が重なった。いずれも初めてのことである。まず異常な猛暑続きで熱中症による死者が相次いだ。次いで、100歳以上の行方不明者が続出している。

三つ目が、改正臓器移植法の適用第1号だ。改正前にはありえなかったケースで、臓器提供の意思を示す書面がなくても、家族の承諾で移植される。箱づめの心臓、肺、肝臓などがあわただしく移植先に分散運搬される映像は、平静に見ることができなかった。

臓器法改正案の国会採決は自主投票だった。当時の麻生太郎首相、鳩山由紀夫民主党代表らが反対票を投じた記憶がある。心臓死でなく、脳死を人の死とすることに抵抗を感じる人がまだ少なくない。

三つとも、死がかかわり、家族、社会が問われる。ことに、行方不明事件は、日本社会の異変を感じさせた−−。

たまたま6日、京都・宝ケ池の国立京都国際会館で催された2010サマーセミナーに参加した。<和魂の復活こそ日本再生の鍵−−日本人の心根(こころね)を育てたもの>というテーマにひかれたからだ。和魂漢才、和魂洋才と言うが、肝心の魂(精神)が怪しくなっている。

主催は伊吹文明元自民党幹事長の後援会。といっても、通常の選挙用研修会ではない。次世代育成のために<持ち出し>で続けてきた、いわば伊吹塾だ。27回目、世代を超え200人が受講、終日、4人の講師がびっしり講義した。

開会に当たって、伊吹は最近、外国人記者からよく、

「日本は大丈夫か」と問われ、

「大丈夫にするのが政治の責任だ。民主制の下では、主権者たる国民の自覚も不可欠で、この程度の国民には、この程度の政治、あの程度の首相になってしまう」と答えていると述べたあと、こう問題提起した。

「最後は人の値打ち、人間の矜持(きょうじ)だ。いまだけ、自分だけ、では衆愚政治になる。日本人は精神的に優れており、魂、心根、謙虚さを持ち合わせているはずだ。

いまこそ、自由と民主主義の悪い面の防波堤をつくろう。空港で両替しても、コンビニで釣り銭もらっても、数えずにポケットに入れることができるのは日本ぐらい。日本人はまだましです」

講義の内容を詳しく紹介する紙幅はないが、講師の一人、宗教学者の山折哲雄は、<鎮守の森と共同体>の題で、最初に島倉千代子のかつてのヒット曲「東京だョおっ母さん」を話題にした。

田舎から上京したおっ母さんは、宮城(皇居)、靖国神社、浅草とめぐり、最後の観音さんで悲しみを癒やす。東京鎮魂歌だ、という。

「いま日本人は慰霊の気持ちを持ち続けているか。テレビで<なつかしのメロディー>をやっても、あの歌は出てこない。

西欧文明の思想は生き残り、サバイバルだ。生き残るものと犠牲になるもの、犠牲者への関心はあまりない。日本は違う。村共同体の理念だ。大災害があれば、みんなと運命をともにしよう、と」

山折節が続く。

「それを支えているのが無常観、仏教が日本人に与えた最大の贈り物だ。永遠なるものは一つもない、人は生きやがて死ぬ。死を正面から見つめる。死生観という言葉は英語にもドイツ語にもならない。しかし、戦後の日本はそれを捨てた。だから、『東京だョ……』が消えていく。

これからの日本を、世界の中でどう位置付けるのか」79歳の老宗教学者は気がかりそうだった。いまだけ、自分だけ、は政界にもはびこっている。和魂を深く考える時なのだろう。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 11:48 | comments(1) | trackbacks(0) | pookmark |







「小沢政治は卒業しよう」 岩見隆夫
迷走、漂流などと言われるなか、政界の古参組は何をしているのか。最古参は衆院当選14回の森喜朗、小沢一郎ら4人、ついで13回が加藤紘一、野田毅の2人、12回はなく、11回が亀井静香、鳩山邦夫、鹿野道彦ら8人、10回が菅直人、横路孝弘、麻生太郎、谷垣禎一、平沼赳夫ら9人で計23人。

全衆院議員の5%に当たる。年季が入っているはずのこのベテラン集団、動きが鈍い。指導層として、政界の風通しをよくしなければならないのに、冴(さ)えないのだ。

しかし、だれもが手をこまねいているわけではない。自民党の加藤紘一元幹事長は、参院選投票日2日前の先月9日、岩手県奥州市(旧水沢市)に入った。民主党の前幹事長、小沢一郎の地元だ。加藤は街頭で、

「一つの政党がすべて数でモノを決める。一人の政治家の力で決める。そういう政治に終止符を打つためには、水沢の方たちの投票が重要です」

などとぶった。一人の政治家とは、当然小沢を指している。敵陣に乗り込み、レッドカードを突き付けたも同然だった。

来月14日の民主党代表選が近づき、政界は日増しにキナ臭くなっている。党内に小沢擁立論が強まり、すでに出馬表明している菅首相と小沢の対決になるかもしれない、という観測が広がっているからだ。

新装の議員会館で、加藤に聞いた。小沢の出馬はありそうか。

「わからない。立たないような気がするが、力があるなら自ら立つべきだ。菅さんとテレビ討論をやればいい」

しかし、小沢政治には終止符を、と言っている。

「とにかく、小沢さんは幹事長の時にテレビで他党と議論したことがない、すぐ姿を消す。与党の場合、幹事長が首相の代役をつとめるのが通例なのに、まったく異常だ。それを永田町もメディアも許している。戦後の議会でこんなケースはなかった」

2人の付き合いは古い。父親がともに自民党藤山(愛一郎)派に所属し、選挙区も岩手と山形で近く親しかった。小沢は父、佐重喜が急死し、後を継ぐことになって、準備のため世界一周の旅に出る。最後に立ち寄ったのが香港、総領事館に勤務していた加藤が一晩案内役をした。約40年前、それ以来だ。

「だから、新人議員のころはよく一緒に遊んだ。議論もした。自民党の幹事長になった(1989年)ころからかなあ、奥の院っぽくなって。陰気で、ワイワイガヤガヤが小沢政治にはないんだ。

力量は相当だが、あまりに権力志向的で、権力保持にすべての力点がある。どういう国を造ろうとしているのかも、はっきりしない」

加藤71歳、小沢68歳、時間は多く残されていない。政界通の野中広務元自民党幹事長は最近、雑誌の座談会で、

「加藤さんとまだ生煮えの小沢さんが手を結んで一つになる、なんてことがあるかもわからん」と語っている。

「それはない。考えが全然違う。私はリベラルだが、まったく逆の人。小沢さんに代表される暗い政治からはもう卒業しようと世論も高まっているんだから」

と加藤は言下に否定した。首相の最有力候補と言われながら、森首相追い落としに失敗した<加藤の乱>、あの時、世論は沸いた。約10年が過ぎ、またヤマ場がめぐってきた。こんどは<民主の乱>、世論は戸惑っている。

小沢はどう動くか。

「あの人、昨今、寂しげなところがまとわりついている」と加藤は微妙な言い回しをした。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 10:44 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







猛暑、政争、「98歳の句集」 岩見隆夫
あすから始まる猛暑の8月政局は、何が起きるか見当もつかない。そんな折に、と言われるかもしれないが、そんな折だからこそ、ぜひとも紹介したい。

水田三喜男(1905〜76)は戦後1回目、46年の衆院選で政界入りし、吉田、石橋、池田、佐藤各政権で蔵相、通産相などを歴任した。高度経済成長期の立役者である。

このユニークな党人派の人柄を短い行数で描くのはむずかしく割愛するが、夫人の清子(せいこ)は98歳でいまも健在だ。このほど、「白鳥」「高麗堤」「石蕗の花」「安房山」に次いで、第5句集「九十九里」を刊行した。

清子は、水田が65年に政務のかたわら創立した城西大学の経営を引き継ぐ(現名誉理事長)一方、40年来の俳句歴がある。「九十九里」は92年、水田の選挙区(旧千葉3区)だった千葉県東金市に清子が城西国際大学を併設してから03年まで、九十九里地域の自然を材にとったものだ。

俳人協会会長で毎日俳壇の選者でもある鷹羽狩行(たかはしゅぎょう)は、清子の句集に序文を寄せるに当たって、

「私は、これまで中曽根康弘さん、宇野宗佑さん、藤波孝生さんと3人の政治家の句集出版にも携わった。だから、水田さんのも私の仕事だよ。私が若いころ、先輩たちにくっついて水田三喜男先生に俳句文学館建設の陳情にお伺いした時に、末席にいたご縁もあるからね」と語ったという。

名前が挙がった3人の代表句をとりあえずご披露すると。

 中曽根元首相、引退のころ−−。
 くれてなお命の限り蝉しぐれ

 宇野元首相、初出馬時−−。
 一念の出馬発止と菊の雨

 藤波元官房長官、政治信条−−。
 控へ目に生くる幸せ根深汁

3人だけでなく、かつて政界には俳句好きの議員が多く、<平河句会>が催され、水田もその一人だった。会長は党人派の総帥、大野伴睦(自民党副総裁など)が務めている。

この句会を指導した、昭和を代表する俳人、富安風生(1885〜1979)は、宇野の句集「王廟」(市ケ谷出版社・63年刊)の序文に、

<政治家がもっと俳句を作るようになれば、日本の政治の世界は、いまよりもだいぶ明るい感じのものになるのではないだろうか。

少なくも、俳句をたしなむ政客が、俳句のために、世間から一段と親愛感を抱かれている事実があると思うのは、必ずしも俳人たるわたしの身びいきのみでもあるまい>と控えめに俳句のすすめ、それが政治を少しでも変えるかもしれない期待を記している。

水田清子は40年前、富安に師事し、主宰誌「若葉」に投句していた。政治家夫人として選挙活動などを手伝いながら、かつての政界の俳句熱を受け継ぐように句作を続け、98歳にして句集を出す。

清子の出版は、政治家にとって心のゆとりが大切なことを教えている。句と文に<亡夫>という言葉が頻繁に出てくるが、亡夫の水田は教育に情熱を注ぎ、浮世絵収集家でも知られた趣味人だった。

「九十九里」から一句。

海光を抱へて海女の若布(わかめ)干す
海光(海面が放つかがやき)は人が抱えきれるものではないが、それを<抱へて>と把握したのが秀抜、と鷹羽狩行が褒めている。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 07:32 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







マスコミは〈小沢もの〉に走りすぎる 岩見隆夫
本誌先週号の表紙には、〈小沢一郎「代表選出馬」〉と大書されていた。まさか、と思って記事を読むと、小沢一郎前民主党幹事長本人が、九月に予定されている代表選に「出る」と口に出して宣言したわけではない。小沢さんの側近や周辺が、ぜひとも名乗りを上げ、勝って首相に就任してほしい、と望んでいるという話である。

それならわかる。しかし、「出馬」と断定的な見出しをつけるからには、編集部が出馬確定的と判断したのか、それとも、出るか出ないかはわからないが、小沢さんの出馬問題がこれからの政局の焦点になりそうだ、という程度のことなのか。

私は小沢さんの出馬はないとみている。本人や側近から聞いたのではない。常識論である。小沢さんが昨年五月、代表を辞め、この六月、幹事長を辞めたのはいずれも小沢さんをめぐる〈政治とカネ〉の疑惑で世間の批判が高じ、選挙の票が減るのを恐れたからだった。

幹事長辞任のあとの世論調査では、なんと九割が〈よかった〉と回答している。疑惑の人物が政権与党の中枢から去ったことに、ほとんど全国民が安堵したのだ。そんな人物が三カ月後に代表選に出馬し、首相になったとしても、一日ももたない。国民を敵に回すようなものだから。

小沢待望論者の一人である作家の塩野七生さんは、カネ疑惑について、

「そもそも古今東西、ほとんどの政治家は、多かれ少なかれ汚れているものです。マキアヴェッリも、政治家は個人的野心を抱いてはならない、とは一言も言っていません。それどころか、『個人的野心はあったほうがいい』とさえ述べている」(月刊誌『Voice』五月号のインタビュー)

と語っている。このインタビュー記事の見出しは、〈悪をもって悪を制す小沢一郎氏に強大な権限を与えよ〉だ。多かれ少なかれ、とはどの程度の汚れをいうのか。田中角栄論がにぎやかだったころも、

「少しぐらい悪いこと(たとえば政治力による蓄財)をしても、大きな良いことをすれば、それでよい。悪いことも良いこともしないのが最低だ」

という金権に肯定的な主張があった。これまた、少しぐらい、とはどのくらいなのか。法に触れてもいいということなら、法治国家では通用しない。

確かに悪事にたけた政治家はエネルギッシュという傾向はある。だが、それをひっくるめて認めてしまうと社会は確実に濁る。小沢さんの政治資金規正法違反容疑は、嫌疑不十分・不起訴になったが、検察審査会の議決は〈起訴相当〉と〈不起訴不当〉で、今後刑事被告人になる恐れを残している。つまり、疑惑の濃い人物なのだ。

◇毒素とパワー魅力だが 政治が混乱、自制が必要

だから、私は小沢出馬などありえないと確信している。ただ、策士の小沢さんは自分を〈注目の人〉に仕立てあげるのが実にうまい。昨年の衆院選の際も、東京十二区から落下傘で立候補しそうなことをほのめかし、最後までマスコミを引っぱりながら、結局肩すかしを食らわせた。今回も行方をくらませたり、菅直人首相の面会要請に応じなかったり、注意を引くための芸が細かい。しかし、それは今後の政局展開のなかで、何かを狙ってのことであっても、出馬への布石ではないだろう。

ところで、昨年の代表辞任の時、小沢さんは、

「私は何らやましいことはない。しかし、私のことでマスコミが騒ぎ、それが党に迷惑をかけるので身を引く」という趣旨のことを述べた。

マスコミ公害論である。騒ぐきっかけは小沢さんが作り、納得できる説明がないから、マスコミは騒ぎ続けるのだ。公害というなら、発生源は小沢さんにある。だれもそんな釈明は認めていない。

だが、それにしても、マスコミは小沢さんのことを誇大に書きすぎる。特に週刊誌は、〈小沢もの〉が載らない週がないほどだ。先週も、本誌だけでなく、各誌の見出しをみると、

▽代表選には小沢さん自身が出るしかない!(『週刊朝日』)
▽小沢一郎の罪 私がかぶった!(『週刊文春』)
▽八丈島の海釣り中止を強いられた「小沢一郎」の不愉快千万(『週刊新潮』)
▽「菅退陣」小沢の考え(『週刊現代』)
▽小沢一郎怒りの肉声入手(『週刊ポスト』)

といった調子だ。新聞各紙にも、

〈小沢の次の一手〉といった見出しがしょっちゅう出てくる。小沢さんを俎上にあげるのは構わない。しかし、これだけ〈小沢もの〉がマスコミに氾濫すると、日本の運命はこの人次第で決まってしまうような、へんな空気が醸成されていく。それは危なっかしいことで、実態とも違う。いまの小沢さんにそんなパワーはない。

かつて、田中角栄さんが首相になったころ(七二年)からロッキード事件(七六年)のあともしばらく、〈角栄もの〉がマスコミを席巻したことがあった。

「〈角栄もの〉さえやっておれば確実に売れる」と雑誌の編集者が言うのを聞いたこともある。こうしたマスコミの寵児現象を生んだのは、田中さんについで小沢さんが戦後二人目だ。二人は異質な政治家だが、共通しているのは、ともに拝金主義者で、腕力があり、毒のにおいを漂わせる実力者である。

マスコミの読者、視聴者は、その毒素とパワーに吸い寄せられる。怪奇ものがうけるのとどこか似ているのかもしれない。わからないではない。

ただ、いまの政界は常識はずれのことが起きることも忘れてはならない。マスコミがこの調子であおりたて、万一〈小沢首相〉が誕生した時の日本を想像すると、耐えがたいものがある。

マスコミには〈ほどほど〉が求められる、と私は思う。過剰、過激な小沢報道は、政治を混乱させる。自制が必要だ。(サンデー毎日) 

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| 岩見隆夫 | 02:12 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







菅首相の甘い「指導者論」 岩見隆夫
暑い盛りだから、多少の脱線をお許し願いたい。というのは、知り合いの占い専門家から菅直人首相の詳細な卦(け)が届いた。そのサワリは−−。

▽今年は苦労が多く、特に8月が大変だ。健康を害さぬよう要注意。今年のつらさを乗り越えれば来年以降は大丈夫、首相としての身分、地位にふさわしい仕事ができる。

▽いまの菅首相は大局がつかめていない。子供でガキ大将、けんかも強くない。貧乏なお百姓の感じで、肥料が買えないから声だけ大きい。

▽仙谷由人官房長官とは融和しない。仙谷長官が「これは駄目だよ」と言うと、菅首相が逃げるのでほころびができる。

▽菅首相は小沢一郎前幹事長を切れない。小沢氏も手続きを間違っている。

−−など。しょせん占いだから読み飛ばしてもらえばいいが、当たらずといえども遠からず、の感もある。

菅新政権の発足からまだ1カ月半だが、早くもがけっぷちに立たされている。もちろん参院選の敗北が痛いが、それよりも敗北を通じて浮き出てきた首相としての資質が問われることになった。

世論は7割が菅首相の続投を支持している。だが、菅の資質を買っているからではない。鳩山由紀夫前首相の在任8カ月半に続いて、またも短命首相では、もはや国家としての体面が保てないと本気で憂えているからだろう。

今週、四国・高松を訪れたところ、地元の有力者が、

「菅さんは何度かお遍路にみえたけれど、53番札所で止まっている。やるなら88カ所全部回ってもらわないと。弘法大師が怒ってますよ。四国で菅さんの評判は悪い。だから選挙も負ける」

と息巻いていた。せっかくのお遍路が裏目に出ている。批判を浴びた消費税増税問題も同じで、言ったからには貫くべきだった。菅は、唐突な発言と説明不足を反省したが、それだけでなく、有権者は批判を恐れてふらつく姿勢を嫌った。

縁切り宣言したと思われた小沢前幹事長に、「おわびしたい」と言ってみたり、政治主導の看板だったはずの国家戦略局を格下げしてみたり、いずれも一貫性に欠ける。

千葉景子法相の留任も驚きだった。憲法第68条は、<国務大臣の過半数は国会議員の中から選ばれなければならない>と定めており、千葉は議員として法相に任命された。落選すれば当然その資格を失うが、とたんに民間人扱いに切り替えるのでは便宜的すぎる。

批判ついでに言えば、菅が選挙演説の最後を、「……皆さん、どうですか」と締めくくるのも大変気になった。私の言うとおりでしょう、と賛同を求めている。この口調は、先の所信表明演説のむすびで、

「リーダーシップは、個々の政治家や政党だけで生み出されるものではありません。国民の皆さまにビジョンを示し、そして、国民の皆さまが『よし、やってみろ』と私を信頼してくださるかどうかで、リーダーシップを持つことができるかどうかが決まります」

と指導者論を披歴したのと結びつく。これは甘えの論理である。ビジョンを示しただけで信頼するほど、国民はやさしくない。消費税の失敗も、原因はそのへんにありそうだ。

とはいえ、菅には腹を固め直して、高いハードルを乗り越えてもらうしかない。自民党のベテラン議員から「カン(菅)は戦前戦後の首相の中で、外国人がもっとも覚えやすい名前だそうだ」という結構な話も聞いた。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 16:38 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







有田芳生「37万票」の意味 岩見隆夫
どの政党に、どの候補者に、と最後まで迷った有権者が少なくなかったという。1週間前の参院選だ。迷った結果はご承知の通りだが、そのなかで意表をついたのが、民主党比例代表のトップ当選を飾った有田芳生(よしふ)(ジャーナリスト・58歳)の37万3834票だった。

有田はテレビコメンテーターの経験が長く、顔が売れてはいるが、地味なタイプで、Aランクの有名人ではない。しかし、2位に回った超Aランクの谷亮子(柔道家・34歳)を約2万票も引き離した。なにが起きたのか。

谷が小沢一郎幹事長(当時)に伴われて出馬表明の記者会見をした時、民主党の幹部たちは、「当確だな」と口をそろえた。出るだけで当選、というニュアンスだった。過去の選挙経験がそう言わせている。しかし、有田には、小沢が、

「なんとか20万票とれ」と指示しただけで、当確をほのめかすものなどだれもいない。心の中で、20万票を目標にしたが、組織の応援ゼロの孤独な戦いだった。

結果は14都道府県で谷票を上回る。特に東京の得票は全国1位の6万8000票、谷の倍に近く、東京で2回の参院選当選歴を持つ保坂三蔵(自民・落選)にも勝った。

有田に聞いた。なぜそんなに得票できたのか。

「わからない。心境は複雑だった。2回落ちている(07年の参院選比例代表、09年の衆院選東京11区)し、60歳過ぎた新人はない。どうしても今回は、と思った。

投票日が近づくと、マスコミの調査結果は尻上がりによくなって、『全国トップだ。50万票はいく』なんて言われ、よけい不安になったが、欲も出てきて、『谷さんをトップにしてはいけない。民主党の印象が悪くなる』と思ったりした」

有田は雑誌編集者などをつとめたあと、3年前まで通算14年、TBS、日本テレビで解説者をした。特にオウム事件でしぶとい論陣を張る。いわゆるテレビ有名人の一人である。

しかし、派手さがなく、認知度が低い。顔は知られているが、<有田>の名前と結びつかない。<オウム真理教と徹底的に闘い、拉致問題でも行動した元祖・現場主義>とチラシに刷り、全国まんべんなくコツコツと歩いた。

また、<ア行効果>があった、と有田も民主党関係者も言う。投票所で候補者名簿の最初に名前が載るのが有利に働く。そんなことも多少あるのかもしれない。

だが、今回の選挙戦を振り返って、有名人戦線に異変が起きたことを思わせる。谷のような超Aランクの源流はミスターNHKの宮田輝だ。74年の参院選全国区に自民党公認で出馬、259万票の大量得票でトップ当選した。

以来、多くのテレビ有名人が政界入りしては消えていったが、<超>がついただけでは、もはや神通力はない。今回は並の有名人がほとんど落ちた。プロ野球3人衆(堀内恒夫、中畑清、江本孟紀)は合わせても25万6000票、有田1人より12万票少ない。

有権者の選択眼は確実に肥えてきた。有田は、

「政治家らしくないと言われるが、自分は自分です。いろんな人が(政界に)いていいんじゃないか」と言う。そんな気張らない、きまじめなコツコツ派を、有権者は見逃さない。知名度だけでなく、役に立つかどうかを見分けようとしている。好ましい流れだ。

だが、民主党は敗れた。敗因について、有田はこう言った。

「政治家の信念のブレです。貫かないと。(リーダーのブレで)私も『うそつき』と怒鳴られたり、チラシを破られたり、しましたから」(敬称略)
   
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| 岩見隆夫 | 06:23 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







塩野七生に反論する 岩見隆夫
先ゆき不透明ななか、識者の政治意識もいろいろだ。「ローマ人の物語」などの著作で知られるイタリア在住の作家、塩野七生(ななみ)が月刊誌「文芸春秋」8月号の巻頭随筆で、参院選を論じている。タイトルは、

<民主党の圧勝を望む>

だれもが圧勝はあるまい、と予感しているだけに、意外性がある。この2ページの短文、男女関係までからめてつづられ、読みごたえがあるが、論旨には同意しかねる。

なぜ圧勝を望むのか。塩野は、

<政権安定のためである。それも、他の党との連立を組む必要のない、強力で安定した政府にするためなのだ。……多くの日本人同様に私も、日本の政治家に希望をいだかなくなって久しい。だから、菅新首相に特別に期待しているわけではない。ただ一つ、参院でも過半数を制して安定した政府をつくり、それで少なくとも三年はつづいてくれ、という想(おも)いだけなのだ>

と書いている。少なくとも3年は、という点は賛成だ。ひっきりなしの首相交代がいかに国の損失かは、当コラムも再三訴えてきた。もういいかげんにしてほしい、と思う。菅直人首相も、

「この5年で4人も首相が代わった。これではだめだ。参院選で問われているのは、安定か混乱か」と言う。安定とは政権の継続で、塩野の願望と同じである。

ただ、塩野は継続だけでなく、<強力で安定した政府>を望み、そのための圧勝、つまり民主党の単独過半数はもとより、絶対安定多数を期待している。

そこが、あす投開票の参院選最大のポイントだ。イタリアからの目は、単純化し割り切ることができる。しかし、民主党政権発足から10カ月、日々新政権と付き合ってきた国民にとっては、そうすっきりとはいかない。政権の継続はいいとして、強力・安定の議席を与えてしまっていいのか。民主党は政権党として、この国の将来を託すだけの資格を備えているか。<普天間の鳩山>と<消費税の菅>を見つめながら、国民には迷いが生じている。塩野は、その点、

<私は、鳩山という首相を、「日本の悪夢」として忘れることにしたのである。この人が首相であった九カ月間を細かく詮索(せんさく)したりすれば気が滅入(めい)るだけだし、……忘れるほうがよほど生産的である>

とあっさり切り捨てた。しかし、これまたそうはいかない。

鳩山政権の挫折は、鳩山由紀夫前首相の力不足が第一の原因ではあるが、鳩山を支えきれなかった民主党の未熟さも軽く見るわけにはいかない。<悪夢>だけで片づけるのは、あまりにも短絡的だ。

昨年春、やはり「文芸春秋」の巻頭随筆で、塩野は、<拝啓・小沢一郎様>の一文を書き、こう呼びかけている。

<世界の中でただ一国、政局不安定なのが日本です。政局安定のためには大手術をするしかない。自民党と民主党の、今すぐの大連立です。そして、それをやれるのは、小沢様、あなた御一人です>

と。当時、小沢は民主党代表だったが、政治資金疑惑が発覚してまもなく辞任する。

塩野の政局安定論は、1年余の間に、自・民大連立のすすめから民主の圧勝願望まで、移った。それだけ、政界の転変が激しいということだろう。

安定するに越したことはない。だが、議席数が安定しただけで、いい政治が実現すると思うほど、有権者の目は単純でなくなっている。あす、悩み迷いながら、微妙な結果を出すのではないか。(敬称略)

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| 岩見隆夫 | 10:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







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